彼の名は亮介、学校の成績は全て3何処にでもいるような学生である 家族構成は母、姉、妹の三人で父親は行方知れずとなっている 所謂エロゲー設定 そして物語はここから動き出す・・・ 「ただいまー」 亮介が家に帰宅する 姉と妹とは違い帰宅部なので家には誰も居ない 亮介がリビングに入るとテーブルに瓶の下敷きになっている書置きらしき紙が置いてあった 「ん?・・・何々」 亮介は書置きに目を通した それには 解体処理 姉 調理人 母 お客様 妹 と書かれていた 「………?」 解体処理?調理人?そしてお客様? 意味は分かる。文字の通りだろう。姉が何かを解体する人で、母がそれを調理し、妹がそれを頂く。簡単だ。 だが……それと同時に、この文字が、よそよそしく亮介を排斥するようなこの文字の羅列が、自分の意識に猛烈な違和感を投げ掛けるのも確かであった。 少なくとも日常に於いて、親類のものを――それを一つ屋根の下ので暮らすものを、お客様などと呼ぶことはない。同様に、調理人も然り。 だが――最大の違和感は、姉の横に書かれた四文字、即ち『解体処理』だ。 「……」 紙の上に置かれた薬の正体も不明だが、何故姉が解体処理なる役割を受け持つことになっているのか。そもそも、一体何を解体するのだろうか。 解体、と言うからには体あるものをバラすのだろう。だがしかし、冷蔵庫の中にそれに該当するものなど有る筈もなく、対象を推測する事は困難であった。 まさか、牛や豚をそのまま買ってきて解体するわけではないだろう。我が家に屠殺場はない。さらに言うなら、姉がそのような免許を持っているという話も聞いたことはない。 これは何かの冗談で、三人だけに通じる何かの暗号だろう。そう一笑に伏そうとした亮介は、次の瞬間。 「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」 恐らく男が発しているであろう苦悶の叫びが、隣の部屋から聞こえてくるのを耳にした! 家には誰も居ないはず・・・と思ったのだが恐る恐る部屋を覗いてみた そこには・・・ 紛れも無く「俺」が縛られて猿轡をつけられていた 「「ただいまー」」 考える余地の無いまま姉と妹が帰ってきた様だ 姉と妹の帰宅する声を聞いて、慌てた俺は急いでその「俺」が居る部屋に逃げ込み扉を閉めた。 部屋の中に電灯があるおかげで扉を完全に閉めても中の様子を見る事は出来た。 見渡すと部屋の中には「俺」だけでは無く、奥で男が何かに張り付けにされていた。 それは、母の兄。 父親のいない俺達の父的存在な伯父の姿だった。 「美紅姉さん、あれはいつするの?」 「……母さんが決めてからよね、やっぱり」 隣の部屋から二人の声がする。 妹の凛と美紅姉さんは俺が隠れているのにはまだ気づいていないようだ。 俺は扉の隙間から隣の部屋をのぞき見ることにした。 「はやくしてほしいのに。早く姉さんみたいになりたいのになあ」 「そうね、凛もなりたいわよね。…エンプレス様の眷属に」 …エンプレス? 誰のことだ? 「ね、みせてよ! 10年前に姉さんが○○を食べて手に入れた姿を!」 「擬態をとけって? もう、しかたないなあ…」 今…妹は何て言った…? そう思っていると、美紅姉さんは服をぬぎだした。 (おおっ!!) 姉の美しい……柔らかそうな裸体がそこにあった! だが次の瞬間、グググッとその姿がひきしまっていくではないか!? 「(――なっ!?)」 思わず声を出してしまいそうになるのを堪える亮介。それに気付いた様子もなく、姉はみるみるうちに、その姿を変えていく。 適度に脂肪が付いた両腕は、外からでも分かるように筋肉が盛り上がってくる。脚も、腕と同じ様子を見せていた。 腹筋は六つに割れ、背筋も引き締まり――胸と尻以外の脂肪が筋肉に変化したような外見……。 だが――! 「はぁ……ぁあ……うあぁっ!」 姉の変化はそれだけに留まらなかった! ぼこん、ぼこんと盛大な音を立て、背中が突き上げられている!それも幾つも――まるで、寄生したエイリアンが皮膚を食い破らんとしているかのように――。 よく見ると、それは背中だけに留まらず、他の場所も盛り上がっている!どくん、どくん!音が鳴る度に姉の声も段々高くなっていく! そして――! 「うあっ!ああっ!ああああぁ〜っ!」 背中より飛び出したそれは……3対の白き翼だった…! 俺より頭半分ほど低い身長だった姉だが、 いまや頭一つ半は上になっており 柔和だった顔は美しく勇ましい女戦士のよう。 元の姿のなごりは美しい黒髪ぐらいだが、 その頭部にも光輪のようなものが見える。 その姿はまさに天使…それもセラフとかいわれるような姿だった! 「……ぁっ……はぁっ……ふふふっ」 翼をはためかせ、凛々しい笑顔を見せる姉は、肩甲骨と腕の中間辺りでモゴモゴと蠢くそれに手を翳した。 すると――激しい光と共に現れたのは、亮介の腕ほどもある長さの曲刀だった。 「あぁ……お姉ちゃん……綺麗だよぉ……」 妹は既に、魅了されたように姉を見つめていた。実際魅了されているようだ。 亮介とて、魅了されていたのかもしれない――自分とそっくりの存在や、親代わりだった伯父さんが拘束されていなければ。 そして姉の剣の切っ先が、明らかにその男達に向けられていなければ。 「ふふふ……伯父様。ご機嫌はいかがです?」 美紅姉さんは、お茶を誘いかける貴婦人のような優雅さを含んだ声で伯父さんに話しかける。 だが――伯父さんは反応しない。ただ何かを堪えるように、脂汗をかいているだけだ。 時折歯軋りの音がするのは、恐らく気のせいではないだろう。 「あらあら……凛のために植え付けた'エンプレスエッグ'が、もうこんなにも育って……苦しいのですね?伯父様……」 伯父さんは何も答えない。ただ、何かを耐えるようにずっと俯いたままだ。その様子を見て美紅は慈母のような笑みを浮かべる。 「(……というより、'エンプレスエッグ'って一体……)」 亮介は、次から次へと沸き起こる、既存の答えがない疑問を脳内処理していた。もう一人の'自分'、天使になった姉、'エンプレス'、わけの分からないものばかりだ。 凛は――。 「ああ……!」 先程の姉の言葉に、何かを感じ取ったらしい。ただただ感動したように、姉を見つめるだけだ。 そんな妹の姿を一瞥して、姉の美紅は手に持つ曲刀を構え―― 「では、気持ち良くしてさしあげますね」 ――伯父さんの左腕を、何の躊躇いもなく切り落とした! 「――ッ!!!!!!!!!」 息が詰まる思い、と言うのだろうか。背筋が凍る思い、とでも言うのだろうか。 少なくとも、眼前で行われている光景は、亮介にとって、あまりにも現実から解離した惨劇だった。 切り落とされた腕は、細胞そのものがスパンと切られてしまったらしく断面は平ら。 ただし血管からは先程まで巡っていた血液が大量に吹き出し、その勢いで腕そのものがガクガクと痙攣していた。 伯父さんの体側の断面も、似たようなものだった。まるでそのままくっつけて縫合し直せば、そのまま元通りになってしまうのではないか、そう思わせるほどに……。 あまりの光景に動くこともできない亮介だが 頭の片隅に疑問が浮かび上がった。 (俺に気づいていないのか?) 姉の変身に驚いて、うっかり扉を開いてしまったわけだが 亮介の存在を全く無視して二人はこの部屋に入ってきたのだ。 「伯父様、痛いですよね? でも、もう決まっていることなんですよ。 凛が『エンプレス』女神帝ルカ様の眷属になるために 凛の血族である男の血肉とエッグが必要なのですから」 (じゃあ、さっきのは聞き違えなんかじゃ…!?) そう、先程の凛の言葉。 父さんを食べて…! そんな亮介の戸惑いをよそに、姉は慈母のような、しかしどこか嗜虐的にも見える笑みを伯父に向ける。叔父は相変わらず俯いたままじっとしている。 「あらあら……ふふふ……、まさか、腕を切り取られて、痛くないとか仰ったりはしませんよね?」 妹は目の前の非常識に組み込まれているのか、相変わらず姉に熱の篭った視線を投げ掛けている。目の前で、育ての親である伯父が切られているというのに――! だが亮介に、その場の中間に飛び込んで姉を制するだけの勇気もなかった。まぁ飛び込んだとして、伯父を助けられるような力など亮介にある筈無いのだが。 今亮介に出来ること、それは今我が家で起きている事態を、多少現実風にアレンジして警察に知らせることだけ――。 そう考え付いた彼は、二人が自分を気付いてない事を利用し、早々に部屋を出て、警察に電話するために携帯を取りに行った――つもりだった。 だが――その体は、戸の外にある柔らかい肉の壁によって塞がれた。適度に暖かいそれは、亮介が与える衝撃を、全て吸収してしまう。 ぎゅっ……と、目の前の壁が亮介を捕らえるように、体を引き寄せる。さわさわとした感触が背中に、むにむにとした感触が体の前半分に与えられた。 「あらあら……怯えちゃって……亮介ったら、母親の私の気配にも気付かないなんて……」 母親が、美紅と凛の居る部屋に、ようやく到着したのだ。 「亮介ぇ…逃げても意味ないのよ?」 姉は振り向きもせず、俺に語りかけてきた。 「男が女に食べられるのは世界的に決まっているのよ? …その時期になるまで男には知らされないけれど…」 最初から俺は気づかれていたのか? 俺が何をしようとしても無駄だから無視していたのかー? …俺はガクリとその場にくずれ落ちた。 「それで…母様、決心はつきましたか?」 「…そこまでやったらしかたないわね…はじめましょうか。」 その言葉に妹の表情がさらに明るくなる。 かくて…惨劇は再び開始されるのだった! (すると突然、空の彼方が明るく光り始めた。 その光は徐々に大きくなり、轟音とともに亮介の家を直撃したのだ! そう、光の正体は巨大な隕石だった。 直撃を食らった亮介達一家は全員即死であった。 END……?) 「ただね…やっぱり兄さんの叫び声は聞きたくないのよ。 ささっと、やってくれないかしら?」 「私はもう少し聞きたかったけど…わかりましたわ」 十七分割―― 何故か、そんな言葉が俺の頭に浮かんだ。 姉・美紅が踊るように剣を振るったのだ。 左足が落ち、右腕が飛び、右足とともに胴体が地に落ち―― 「伯父様……あなたの血肉は凛の中で生きますよ。 無駄にはしませんわ」 ――そして、伯父の首が飛んだ。 死んだ! 当たり前だ、伯父は死んだ! あまりに凄惨なことで俺は呆然とし、 母がその分割された伯父の体を大皿にのせているのを疑問に思うこともなかった。 「さあ、凛。 服を脱いで、これを抱きなさい」 ――エンプレス・エッグ。 そう呼ばれたものを姉は慌てて服を脱ぎ、全裸になった凛に手渡した。 「ウ……アアアアアア!!」 幼児体型そのものの全裸の凛、そのお腹にエッグは張り付くと凛は叫び声をあげ始めた! 「さあ……食事の時間よ、凛!」 (すると突然、空の彼方が明るく光り始めた。 その光は徐々に大きくなり、轟音とともに亮介の家を直撃したのだ! そう、光の正体は巨大な隕石だった。 直撃を食らった亮介達一家は全員即死であった。 END……?) 凛のお腹に張り付いた'エッグ'は、そのまま彼女の中に根を張りながら沈んでいく。ずぶり、ずぶりと音がするのは、彼女の皮膚と一体化しているからであろうか。 「アァッ!アッ……アハァアアアアッ!」 はじめは微かな苦悶も見えた彼女の表情は、今や喜悦に緩み、口の端からは待ちきれないと言わんばかりに涎がつ……と地面へと垂れている。 やがて彼女の瞳が焦点を失った頃、'エッグ'は彼女と完全同化を果たしたらしい。その様は、さながら幼妻を妊娠させたような、どこか背徳的な姿に変化していた。 と――! ぐにゃああぁぁっ…… 「!?」 彼女のお腹に、縦に切れ目が入り、そのまま粘着質な音を立てて左右に割り開かれた!いや……その切れ目は、彼女の女陰へとつながっていて――!? 「ふふふ……エンプレス様は口から砕くなどと言う無粋で野蛮な食べ方はなさらないわ。獲物に慈悲を与える、全ての始まりの地――すなわち子宮で蕩けさせて、存在を'還'させるのよ……」 母だったものはその間、何らかの魔法を使っているのか、伯父さんの体の骨を綺麗に抜き取り、パウダーにして肉にまぶしている。既に姿もエンプレスの眷族のものになってしまっている。 「ンアァッ!アアァアアアッ!」 妹は巨大化した女陰の新鮮な感覚に悶えていた。開かれた女陰は無数の襞で埋め尽くされ、その一つ一つが飢えている獣のようにやわやわと蠢き、誘いかけている。 巨大な陰唇、それ自体がぷっくりと花開き、食物を今か今かと待ち構えている。唇の端からは、愛液のような、愛液とは違う粘液がだらだらと涎のように垂れ流される。 「あらあら……こんなに涎を垂らしちゃって……」 「美紅、貴女もそうだったじゃないの……」 「そうでしたわね……まぁ仕方ないですわぁ……ふふ……♪」 父親の味を思い出しているのか、下で唇をペロリと舐める。剰りにも現実離れしたその風景に、亮介はただ呆然と、その身を震わすことしか出来なかった。 母の持つ皿の上には、かつて伯父だったものが乗っている。だが伯父だと分かるものは、その顔だけで、残りは原型すら留めないほどに'調理'されていた。 その顔すら――奇妙なほどに喜びに歪んでいる。まるで切られた痛みよりも強い何かの感情に流されたような――。 「ふふ……凛ちゃん、私のお兄さんを、食べていいわよ」 その声と同時に、母親は皿を凛の女陰に向けて傾けた! 凛の下腹部?の口は脈打つように動き始めていた…… そんな中、亮介は母の背中を見て「おや?」と思った。 眷属化した母の姿は亮介よりやや年上、せいぜい二十代前半まで若返っていた。 姉同様、やや筋肉質で長身の姿であるが、決定的な違いがあった。 翼が二対、四枚なのである。 姉は三対、六枚であるのにだ。 「ほらほら凛ちゃん、これを食べちゃえば貴女は私の娘から妹として生まれ変わるのよ」 …? 「そして美紅……いいえ、ミク母様の娘、眷属としての次女になるわけ」 どうやらエンプレスの眷属とやらには義理の親子関係が存在するようだ。 たしか吸血鬼もそんな感じだったよな… は、母と娘で親子関係逆転してるとはなあ… そういえば母は誰を食ったんだろ? 数年前に火事で死んだって聞いた、田舎で一人暮らしをしていた祖父をだろうか? 俺は誰に食われるんだ? 俺に血縁の女なんて、もういないはずだが―― そこまで考えて首を振っていた俺の視界に「俺」の姿が再びうつった。 そして、「俺」の体に俺にありえないものがあるのに今更ながら気づいた。 コイツは――誰だ? この俺にそっくりな「女」は誰だ!? 凛の腹の口から何本もの触手のようなものが飛びだしたのは、まさにそのときだった! 「う……うああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」 叫び声をあげる凛。しかしながらその声は、恐怖とは無縁の、言わば快楽的なそれを含んでいた。 猛烈な勢いで'調理'された伯父を腹の中に含んでいく凛――いや、'エッグ'。 既に凛の体の体積以上の物質を含んでいるであろうその卵は、だが全く大きさを変化させる気配もなかった。まるで食べたそばから分解して吸収しているかのように……。 「アアアッアッアッアぁあぁああ、あぁあっぁっあっぁ……」 凛の叫び声が、段々と弱まっていく。母親……だったものが手にした大皿の上のものは、あと喜悦に歪んだ顔しか残っていない。その顔すら――。 しゅるるぶちゅぐじゅどくんどくんどくん……ぐぢゅ 「ぁぁぁ……ふはぁ」 彼女の'エッグ'の中に消え、同時に'エッグ'も、彼女の中へと沈んでいった。 ぱたり、と喜びの顔を浮かべたまま地面に倒れる凛。それを母親だった'エンプレスの眷族'が、ゆっくりとお姫さまだっこで抱き抱えた。 「ふふふ……。さぁ、ゆっくりお眠りなさい……目が醒めたら、貴女は私の妹になっているわ……ふふふ……」 亮介の立場から言えば、目を醒ましたいのは自分であった。今すぐにこの醜悪な、悪い冗談としか思えない茶番を夢にしてしまいたかった。 だが、床の感触、母親だったものの胸の感触、何より背中にかいた冷や汗の感触が、彼にこれが夢ではないと知らせていた。 逃げ出すことの出来ない亮介を尻目に、母親天使は眠る凛を抱えたまま、〈俺〉の方へと近付いていく。美紅はその様をにこにこと眺めながら……何処か見覚えのある瓶を手に持って、亮介の方に足を進めていった。 「ひ……ひぃっ!」 恐怖を感じた亮介は、腰を抜かしたままでも何とか逃げようと、両足両腕どちらも動かそうとした。だが――。 「逃がさないよ♪」 美紅がもう片手に持っていた剣を閃かせた瞬間、彼の両手両足の感覚は、一挙に消失した。 (すると突然、空の彼方が明るく光り始めた。 その光は徐々に大きくなり、轟音とともに亮介の家を直撃したのだ! そう、光の正体は巨大な隕石だった。 直撃を食らった亮介達一家は全員即死であった。 END……?) う……いったい、なにが……グ!? 目が覚めた俺は立ち上がろうとしたが、 力をいれようにもいれられず四肢から痛みを感じるのみだった。 そうか足は……腕もないのか!? 柱に縛られているらしい俺は いわゆるダルマ状態にされていた。 ただ、ただ、絶望感が襲ってきた。 「止血処理はしておいたわよ。 亮介、貴方を今死なせるわけにはいかないからね」 そうだ、姉が俺の手足を……! 「見なさい、凛の…蓮母様だったレンに続く 私の新たな娘リンの誕生の瞬間を!」 ベッドの上に全裸の凛が横たわっている。 その膨れた下腹部が再び動き出していた。 徐々に腹は小さくなっていき、 長くなっていた下の口も元の大きさに戻っていく。 しかし、それと反比例するかのように 凛の体が大きく成長していくではないか!? 腰はくびれていき、胸も姉に負けないくらいに大きくなっていく。 身長はおそらく俺よりやや高いくらいまでになっただろう。 そして瞼を開きニヤリと笑うその顔は もはや大人の女の顔だった。 起き上がり、最後に背中から四枚の翼が出現して凛は人間ではなくなった! 人間以上の存在になってしまった! 「どう、奇麗になったかな、お兄ちゃん……いや亮介?」 凛……! 「…亮介には、あまり時間がなさそうだね…… おね……ミク母様、今日あっちもやるんだよね?」 「ええ、やるわ。やるしかないから」 そのとき、母が車椅子を押してきた。 そこに座っているのはー− 「紹介するわ、亮介。 ミク母様がエンプレス様にお願いして作っていただいた、 貴方の女性変異体クローン、「亮」よ……」 「……」 亮介の目の前で、亮介そっくりの女――亮は瞑っていた目を開く。他の'エンプレスの眷族'と同じような瞳は……しかし焦点があっていないかのようにぼやけている。 その何処か純粋な瞳に、亮介は吸い込まれるような感覚を覚え――何とか踏みとどまった。 「(な……何だ、今の感覚……。まるで彼女に吸い込まれるかのような……って、俺のクローンだぞ!?自分にそんな感情を抱いてどうする!俺!)」 そう心の中で言い聞かせる亮介。だが、どうしても自分を見つめる彼女の視線が気になってしまう。 「ふふふ……」 ただぼぉっと亮介を見つめる亮の口に、姉の美紅……ミクはメモの上に置いてあったであろう瓶の蓋を開き、亮の口の中に含ませた。 「飲み込まないでね」と耳打ちするミクに、母の蓮……レンと妹の凛……リンは瞳を輝かせる。よく見ると、太股辺りから微かに垂れ落ちる液体が見てとれた。 「ふふ……亮介、これが何か分かるかしら?」 ミクは亮介に、メモの上に置いてあった、薬の入った瓶を手にもって、指で差しながら聞いてきた。 答える気、という以前に、両手両足の痕から走るじくじくとした痛みに耐えるのが精一杯の亮介に、答えられる筈もなかった。 そんな亮介に、ミクは微笑みを崩すこと無く、瓶を彼の視界から遠ざけながら、まるで歌うように話してきた。 「これはね……雄用の'エンプレス・エッグ'が入った瓶。中に入った卵は、ただ雄に食べさせるだけじゃ効果はないの」 薬のように見えた白い物体は、よくよく見ると、確かにカプセルと言うよりは、何処か卵形に見えた。……待てよ? 確か伯父さんを斬っていたとき、ミクは何て言っていた? 『――植え付けた'エンプレス・エッグ'――』 「!?」 まさか伯父さんはこれを――!? 驚愕に歪む亮介の顔を見つめながら、ミクは毒々しい笑顔を彼に向け、興奮したように早口で喋りだした! 「うふふ……♪そうよ、伯父さんはこの'エッグ'を食べたのよ……リンの口移しでね!あははっ♪勿論抵抗できないように体は縛って、口を開かせるために鼻を摘まんだりもしたわぁ……♪」 ミクの言葉を継いだのは、恍惚とした表情を浮かべたリンだった。 「この'エッグ'はね、食べちゃって一緒になりたい男の人に、口移しで食べさせるものなんだよ〜♪そうするとね、男の陽と女の陰が混ざって、'エッグ'が雌の'エッグ'を呼ぶんだぁ……♪」 エッグ、それを食わされると伯父みたいに… そんな中、元母なレンが「亮」を立たせながら語りだした。 「ところで〜エンプレス様に作っていただいた亮は、あなたと同じ肉体年齢まで急成長させたけど 心はまだ赤ん坊なのよ。 知識や思考力を焼き付けることもできるけど、 やっぱり本物にくらべるとダメだから」 …そんなものをなんで……? 「なぜ、クローンなんてって? どうしても亮介を失いたくなかったからね。」 …ってどういうことだよ? 「全ての男は女に食われ、眷属への転生の糧となる。 眷属化の儀式前の、男を食う親族の女がいない場合の男はただの食肉として処理される。 男は眷属にはなれないから助かる道なんてないわ」 …… 「そこで亮介の細胞を元に亮介が女として生まれた場合の人間を特別に作っていただいたのよ。 ミク母様はエンプレス様が直接に眷属化させてかただから、 エンプレス様にお傍に仕える最高ランクの眷属。 無理を言ってエンプレス様にお願いしてもらったのよ エッグによる眷属化の儀式で男は食べた女は眷属となり、男の記憶や技能を引き継ぐの。 自我がほとんどない状態の女が男を食えば、眷属へと転生したとき、 男本人とほとんど変わらない記憶思考の持ち主になる。 見た目も亮介に似てるしね、眷属になったら結構変るんだけども。 まあ、エンプレス様特製だから、普通の人間と元々少し違うし」 ……そうか、俺はこの「俺」な女に食われるわけか…… ……俺の腕も、足も、首も、胴体も! ……今まで生きてきた記憶も! それだけじゃない、俺になりかわられることで俺自身の存在そのものも! 食われて! 奪われてしまうのか!! その絶望のなか、「亮」の顔が俺の眼前にまで近づいてきたのだった…… 「そもそも亮介が産まれつき持っている技能はとても貴重だもの。エンプレス様としても取りこんでおきたかったのよ」 ミクの言葉は、昨日までまるで普通に生きてきた亮介にとって、あまりに唐突だった。ぽかんと口を開けた亮介を見て「やはり」と微笑むミク。 「教えてあげるわね、亮介の力。貴方はね……少しだけ時間を操ることが出来るのよ」 ……なんだ、って…? 「でもね、所詮男の能力だから、とても不完全なの。亮介の場合、条件がとっても特殊でね…死んだ瞬間にか発動しないのよ。心当たりはないかしら?」 亮介の脳裏に思い浮かぶは、空が割けるような轟音と、唐突に襲いかかる高熱と、目映い輝き。瞬間家は吹きとび、目に写るもの全てが粉微塵になり……確かに隕石が落ちたような幻覚を何度か見た。…あれは、幻覚ではなく、現実だったのか? 「心当たりあるのね。なら、もうひとつ教えてあげる。能力は発動時の精神状態に影響されるの。あっさり死ぬと一瞬しか戻らないけど、憎しみ、苦しみ、痛み、怒り、悲しみ、そして…快楽。そういったものが強ければ強いほど…戻る時間は長いはず。どういうことかわかる?」 ミクの微笑みに亮介の背筋に冷たいものが走る。しかし、彼女の次の言葉を聞いたとき、冷たさも忘れる衝撃が彼を襲った。 「亮はね……何度も何度もなんども、永久に食べてもらうことが出来るのよ……」 「!!!!!!!!!!」 永久に……食べられる……? 「んふふ……嫌かしら?素敵じゃない……何回も、何回も、なぁんかいも死と生が経験できるのよ?」 悪意すら感じさせるミクの声に、亮介は何も言い返せなかった。何度も訪れる死……そんなものを望む人間などいない。 それなのにミクは、こんなことまで口にするのだった。 「私達に食べられるのって、とっても気持ちが良いのよ。伯父さんも笑っていたでしょ?あれはエッグが痛みを全て快楽に変えてくれているから……。 死ぬ度に、どこまでも気持ちよくなれるのよ?とっても素敵じゃない♪」 理解できなかった。いや、亮介の頭が理解を拒んでいた。結論は既に頭の中にあり、それがパズルのピースであることは感じている。だが……填めることを拒んでいた。 填めたら……色々と終わる。存在が暗黒に塗りつぶされる。少なくとも――自分が自分でなくなる。亮介はそんな気がしていた。 ――だがしかし、 「……」 目の前にいる自らと瓜二つな存在が、未来を――存在を奪い取るためにゆっくりと近づいて来たことに、反応できなかった。 「ふふっ……さぁ、お食べなさい……」 ミクが傷口を押し込んだ、そう思ったときには遅かった。 「んがあむっっ!」 痛みに叫ぼうとした口を塞ぐように、亮は亮介に唇を押し付け、舌を――'エッグ'を亮介の中に押し込んだ! 「!ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!」 押し返そうとする亮介の舌の動きに逆らうように、'エッグ'は段々と体の中に入っていく。喉を通り過ぎ、食道を下り――! 「ん゛ん゛ん゛ん゛〜〜ーーっ!」 ――腹部にて、内壁に取り付き、同化した。 俺の体が変質していくのがわかる…… 人間から……女に喰らわれるための肉に変質していくのが…… 先程、姉から斬られた手足も再生したようだ。 だが、もはやそれは俺の意思で動かない。 あくまで食われるための都合で再生しているのだ。 だが、俺は何故そう理解できるのか? 『……無駄デハナイ、コノ時間ノ繰リ返シモマタ必要ナ時間……』 なんだ? 声がどこからか聞こえる? 『我ハ「スレイブ・エッグ」。 「マスター・エッグ」ノ対ノ存在ニシテ、 今ハ汝自身デアル』 エッグ……さっき食わされたやつか! 『亮介ヨ、イマダ汝ノ運命ヲ拒否シ逃避スルカ? 六度ノ繰リ返シデ理解デキタノデハナイカ? 汝ノアルベキ道ヲ』 何だと、六度……? 『融合セシ我ハ汝自身。 故ニ、我ニハ繰リ返シノ記憶アリ。 コレデ七度メナリ。 汝ガ理解スルニハ十分ナ時間。 コタエヨ、汝ノ前ニイル存在ハ汝ノナニカ?』 俺の前だと? 前にいるのは……亮。 俺を元にして生まれた、 俺の分身にして継承者。 俺がその存在全てを捧げる主。 偉大なるエンプレス様に仕える眷属、リョウ様となられる……おかた。 ……俺は……俺は理解してしまっていた…… 「ふふふ……。そうよ。食べられて、時を戻して、また食べられて……この空間は、貴方にとって閉鎖された空間なのよ……」 ミク……様が俺に微笑んでいる。亮の餌にしか過ぎない俺に。普通ではあり得ないこと。 「苦しいでしょう?切り離された時の中に、ずっと置き去りにされるのは……とっても辛かったでしょう……?」 ミク様が、近付いてきて俺の頭を撫でる。その感触は……間違いなく俺の姉である美紅と同じであった。いや……下手をしたらそれよりも暖かかった。 知らぬ間に、こくん、と頷く自分。それを見たミク様が、優しく胸をさらけ出して、俺の口に押し当てた。どこか暖かく甘い液体が、俺の体内に流し込まれていく……。 俺の中の『スレイブ・エッグ』がさらに育っていく……もう俺は、逆らう理由すらも分からなくなっていた。 「でもね……抜け出すためには、亮介が亮を、心の底から受け入れる必要があるの。そうすれば、貴方の時はまた進み始めるわ」 とくん、とくん。俺の中にある『スレイブ・エッグ』が、亮の中にある『マスター・エッグ』に反応している。 亮は「ん……あは……♪」と淫らな声をあげて、俺を優しい目で見つめている。腹に開いた口が、秘部へと繋がってぐぱぁ……と開く。 触手はゆらゆらと揺らめき、俺を誘いかけるように腕に優しく巻き付く。おいで、おいで、そう誘っているかのように。 くすっ、と嬉しそうに笑うミク様は、俺の手足の拘束を外して、亮の前で担ぎ上げた。あれ?なぜ解体しないのだろう? 「貴方は特別よ。さっき体を斬ったのは逃げられなくするため。でも……もう亮介は逃げないよね?」 俺の視線が、亮と交錯する。どこまでも澄んだ瞳……その色が慈愛に満ちたものだと感じられたとき、俺は――頷いていた。 「ふふふ……。さぁ、亮。亮介を――受け入れなさい」 「ん……んぁっ!んぁぁあぁああああああああっ!」 ミク様の言葉が響くが早いか、亮の'口'の中から無数の触手が飛び出した!それは俺の四肢のみならず胴体にも絡み付き、俺を包み込んでいく! 「んむっ、んむんんんんっ!」 口の端をつんつんと刺激する触手に、俺は口を開いてその要求に応じた。口から侵入した触手は、どんどんと体の奥に伸びていく。 一部のそれは枝分かれし、窒息しないように酸素を供給する気管となった。 少しずつ引き寄せられる俺。目の前には巨大な――子宮への入り口。それが吐き出す甘美な芳香が、俺を恍惚とさせていく……。 (すると突然、空の彼方が明るく光り始めた。 その光は徐々に大きくなり、轟音とともに亮介の家を直撃したのだ! そう、光の正体は巨大な隕石だった。 直撃を食らった亮介達一家は全員即死であった。 END……?) 「んあんぅんんんんぁぁあああああああっ♪」 ぐねぐねと蠢く子宮内部の肉襞。瑞々しい桃色をしたそれが、俺の――外の世界で見た最後の光景だった。 しゅるしゅると、粘液をまとった生暖かい触手が、俺の目を目隠しするように覆ったのだ。不思議と気持ち悪いとは感じなかったのは、これが亮の体の一部だからだろう。 まるで抱擁を交わすように、少しずつ俺に何重にも優しく巻き付いていく触手。隙間から漏れる甘く淫らな香りが、段々と『その時』が近付いて来ていることを俺に知らせる。 そう考えるだけで――俺の感情は喜びに溢れ、体は興奮のあまりビクビクと震えた。 ――ぐぢゅぷっ 「!!!!!!!!!!」 「あああんあっあんんあぁあぁああああっ♪」 ついに、俺の体が亮の中に埋まり始めた!真っ先に顔が、柔らかな肉の中に挿入されていく! 巻き付いていた触手が肉の壁に溶け、無数の柔らかな襞が俺の顔に吸い付くように迫っている! 耳元に、粘液に濡れた肉襞がぐちょぐちょと、まるで舌のように侵入してくる。その一部は触手のように細長くなり、鼓膜の辺りをちろちろと舐め始める。 顔全体を柔らかい肉の毛布に包まれながら、俺の体はさらに飲み込まれていく……。 腕の先が、肉の壁に埋め込まれて舐め擽られている……。 腰回り、へその辺りを触手がつんつんとつついている……。 子宮から伸びた触手が、ペニスを包み込んできゅっきゅっ、とリズミカルに締め付けている……。 膝の裏、脛の辺りに肉壁が淫らなキスの雨を降り注いでいる……。 そして――。 「んあぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁはぁ♪」 ぐじゅる……と肉壁が蠢いて、入り口を閉じていった。俺の体は、完全に亮の中に囚われてしまったのだ。 「……んうん……」 亮の体の中は、まるで適温の風呂のように暖かく、また、母親の抱擁のように優しかった。全身を包む柔らかな肉は、時折やわやわと蠢いては俺の性感帯を刺激していく。 与えられる快感に耐えきれず、股間から精を漏らすと、背中の方の肉壁が、心なしか力強く自分の体を圧迫し出した。 「……は……ぁ……ぁ♪」 微かに響く声から、恐らく亮が気持ち良いあまりお腹を抱いているのだろう事が解った。そんな筈はないのに、腕の暖かさが伝わってきたような気がした。 耳の奥でくちゅくちゅいっていた触手が、ずぼんと痛みもなく鼓膜を貫いた。そのまま触手は、脳の方へとその先端を、少しずつ少しずつ、着実に伸ばしていく。 同時にお尻の方からも、触手が侵入し始めた。内壁を擦るように進むそれのもたらす刺激に、俺の逸物はまたスペルマを亮に捧げてしまう。 肛門から大腸、小腸と、器官を埋め尽くすように進む触手。やがてその先端は、こつん、と何かに当たった。口から入っていた触手だ。 お臍からも、何かが掘り進んで侵入して来るような感覚があった。掘られた場所は暖かく、そして何処か掘られることが愛しく思えた。 全身のあらゆる場所に吸い付いた肉襞が、極細の繊毛を俺の体に差し込んで、体内に広げていく……。俺はそれらの動きに、ただ喜びの笑みを浮かべるだけだった。 そして――脳に触手が差し込まれた――瞬間! 走馬灯−− そう呼ぶべきものだろうか? 俺の頭の中でいままでの記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく…… いや消えていくのではない。 「移動」しているのだ。 俺の脳から亮の脳へ。 俺の中にある全てが亮へ吸収されていっているのだ。 だが、もはや恐怖も絶望もない。 あるのは自分の全てを亮に捧げ、 時間の力を持った、エンプレス様の最大の守りてとなりうる眷属、リョウ様を誕生させられることにたいしての喜びと 亮の胎内からうける安らぎのみだった…… ―−やがて亮介の脳から全ての記憶がなくなり、 亮介は考えるのをやめた。 胎児のように小さくなっていった亮介の肉体は 通常の大きさに戻った亮の子宮の中で消えていった…… ………。 'それ'には、何もなかった。 嘗ては何かあったのかも知れない。名前、体、意識。しかし、今は何もなかった。 ただ存在だけが、そこに存在していた。嘗て存在していたものの、残滓といっても過言でもない有り様ではあったが。 ……。 「……有り難う、'私'」 声。'それ'が声を知覚したのかは分からない。ただ、音が存在に当たる際に発する刺激に反応したのかもしれない。 兎も角、'それ'はぼやけていた顔を再構築し、前を見た。すると、眼前に居たのは……。 'それ'の中で、何か喜びに近いような音を立てて心臓が高鳴った。嬉しい、近くにいるだけで、嬉しい。 そんな'それ'の顔に、'それ'が形作る顔をさらに洗練させたような顔を持った女性体の天使は、軽く口付けを交わすと、ゆっくりと胸元に抱き入れていく。 「'私'のお陰で、私は'私'になることが出来た。'私'が受け入れてくれたから、私が'私'としても生きられるようになったんだ」 'それ'が、体を構築し始める。ふくよかな胸……すらりとした手足、引き締まった胴体……それは紛れもなく、(多少劣化していたとはいえ)目の前の天使の人間体と瓜二つであった。 「今度は、私の番。折角一杯与えられたんだもん。一杯、いっぱい、い〜っぱい返さなきゃ。だから……」 天使の背中にある、三対六羽の羽根が、'それ'を抱き寄せるように広がり、取り囲んでいく。羽根の感触が気持ち良いのか、ふぁぁ……と、'それ'は声を出して喘いだ。 そのまま、天使は'それ'を胸の中に抱え込んでいくと――? 「私の中に、還ってきて。そして――本当に、ひとつになろう?」 ぐにゃり、と天使の胸元に肉の穴が開き、'それ'をゆっくりと飲み込んでいく……。 肩から、胸……へそ……太股……。ずるりずるりと奥深く、'それ'は天使の中に入っていく……。 抵抗ひとつしない。寧ろ、抵抗なく入れるような姿勢で、自ら天使の中へ還ろうとしている'それ'。そして――。 ――にゅぽん。 爪先まで完全に天使の中に'還'った'それ'――亮介の残滓は、天使――亮に存在の全てを明け渡したのだった……。 「んあああああああああああっ!」 人二人入れるほどの巨大な『エンプレス・エッグ』から生まれた亮――リョウを出迎えたのは、今や姪の立場となったリンとレン。 新たなる眷族の'誕生'に喜びに顔を歪めながら、羊水に濡れた羽根を愛情を込めて丁寧に伸ばしている。 「――おはよう、リョウ。エンプレス様の中はどうだった?」 その後ろから来たのは、姉であるミク。粘液に濡れたその額に何重にもキスをすると、彼女はくすぐったそうに身悶えた。 「はいぃ……ミクお姉さまぁ」 人々を蠱惑するような笑みを浮かべながら、新たなエンプレスの眷族となったリョウは、その白い羽根を雄大に広げ、ミクと忘我の抱擁を交わすのであった……。 End. おまけ すると突然、空の彼方が明るく光り始めた。 「あら?始まったのね――神様の悪戯が……いいえ、世界の意思かしらね?まぁ私はどちらでも良いのですが……ふふっ」 ミクは心底可笑しい、まるで不格好な玩具を見つめるような瞳で、リョウが『見慣れた』現象を眺めていた。 リョウはというと、何処かうんざりしたような視線をその光の方へ向けていた。 その光は徐々に大きくなり、轟音とともに亮介の家を直撃――!? 「――そう何度もさせないよ」 リョウは手のひらを返し、天に向けて指をぱちん、と鳴らした。するとどうだ!空が突然捩れ出したではないか! 「亮介……熱かったんだよね。苦しかったんだよね。でも大丈夫。これからはずっと私が'亮介'を守ってあげるからね――亮介からもらった、この力で」 亮介達一家がいた家を狙ったのは巨大な隕石だったのだろう。たがそれは、作り出された時空の歪みに吸い込まれ、食われて消えていく。 エンプレスに食べられ『転生』させられたリョウは、亮介の持つ力を完璧に使いこなしていた。そう、ある部分に時空の歪みを発生させるほどに……。 「ふふ……神様。さぁ、滅ぼされる覚悟をなさいなさいな。自分自身にお祈りをする準備は済みましたか?ふふふふっ……♪」 '母'の表情を浮かべるリョウとは対照的に、ミクは不敵な目線を空に向けていた。 遠く、断末魔が響いた気がしたが、時空の歪みが引き起こす轟音に飲み込まれ、掻き消されていった……。 以降、エンプレスの眷族は、徐々にその範土を増やしていくことになる……。 END.